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翻訳文学、ノンフィクション、ミステリ、ノワールを中心に絵本や辞書まで。偏愛と矛盾と愉悦に満ちた、さすらい読書備忘録。


by bookgipsy42
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ラジオ記者、走る (新潮新書)

清水 克彦 / 新潮社

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3年ほどに前に読んだ1冊。

『クライマーズハイ』(横山秀夫著)が航空機の墜落事故を通して
地方の新聞社に生きる人間の悲哀を描いた作品だとしたら、
本作はテレビに比べて肩身の狭いラジオ報道記者ならではの辛酸に触れつつも、
それでもその価値を深く信ずるプライドと自負に溢れているといえるだろうか。

広告スポンサーが年々減りつつあるなど暗澹たるラジオの現状のなかで、
少人数制のラジオ報道が新聞やテレビに先んじてスクープをものにしたり、
小回りの効く機動力を生かした放送でリスナー層を惹きつけたりと、
あの手この手で弱小メディアとして生存の道を探っている現実を教えてくれる。

かつて新聞とラジオの両メディアに身を置いた者としては、
描かれている現場の話が懐かしくもあり面白くもあったのだが、
斜陽のラジオ報道の未来を十分に明るく照らすものではなかった。

海外の一部ラジオはまだ独自の取材でスクープを得るなど、
強大な権力を保持しているメディアであるのは事実。

だが、ブログが通信社と肩を並べる程のメディアと成長しつつある現在、
アメリカのラジオ最大手がファンド連合に身売りされるなど、
聴取時間の低下もあってラジオそのもの先行きが
ますます不透明なものになってきている。

そんな状況下でも「ラジオ報道復権」に向けての気概を感じさせる1冊。
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# by bookgipsy42 | 2008-12-14 01:11 | ☆☆☆☆

深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1) (ハヤカワ文庫NV)

フランク・シェッツィング / 早川書房

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深海のYrr 中 (2) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-2) (ハヤカワ文庫NV)

フランク・シェッツィング / 早川書房

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深海のYrr 下 (3) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-3) (ハヤカワ文庫NV)

フランク・シェッツィング / 早川書房

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ドイツで『ダ・ヴィンチコード』からベストセラー1位を奪取したという作品。
この上中下巻に連なるように巻かれた帯の惹句に惹かれて
購入したといっても過言ではありません。

が、それは大正解でした。

ノルウェー海で発見された異様な生物の異常行動。
世界中の海で船に襲い掛かるクジラやオルカの群れ。
ロブスターや蟹の体内に入り込んだ凶暴な病原体は猛威を振るい、
そして、前代未聞の大津波が北欧の街を飲み込む。

これらの海洋生物と海の超自然現象と形容される一連の惨劇に
世界中の有能な科学者がアメリカの指揮の下に集結し、
解決策を練って人類の存続をかけて対処していくが…。

この作品の象徴的だと思うシーンがあります。

作中、1人の登場人物が津波に巻き込まれて命を落とします。
迫り狂う高波に襲われるなか、様々な感情がその人物の頭を過ぎります。
恋人のこと、恋人になれなかった親友のこと、キャリアのことなど。
そんな未練に満ちた思いに同情の欠片も寄せることなく、
怒涛のように押し寄せた高波は、轟々と、そして淡々粛々と
その人物の無念の情を、生命を飲み込みます。

そこには海の意思が見て取れます。
「人間の都合など知ったことか」と。

誕生以来、他の多くの生物を都合よく殺め続け、
地球の生態系を破壊してきた人類に対する
強烈なしっぺ返しを明確に示唆した一冊であると言えます。

ちなみに、海を前にすると様々な感情が収斂し、
私などはどことなく厳かな気持ちになります。

これは地球の7割を占める海の深くに存在する未知なる何かを本能的に畏れ、
その畏怖の念が無意識的に脳の大部分を占めるからではないか、
読後に作者の意図するところを思い、しみじみと考えました。

祖父が漁業で身を立てていた私にとっては
特にそんな強迫的な観念をDNAの奥底で受け継いだのかもしれない、とも。

ところで、アマゾンの書評を読んでいると、
「登場人物が多すぎて分かりにくい」
「登場人物の感情描写が多すぎて余計」の2点が目に付きます。

前者は確かに翻訳作品への慣れが必要ですが、
後者は作者の確信犯的な試みだという気がします。
前述したように人間感情など一顧だにしない海の都合を
より一層対照的に際立たせるための仕掛けでしょう。

登場人物が多いのなら自作のメモでも作って整理すればいいですし、
いずれにしろ、どちらとも作品の質を低くするほどではありません。

唯一の欠点は、この作者からすれば当然ですが、
「捕鯨」で日本を著しく批判している点にはほとほと辟易しました。
日本が長く育んできた大切な食文化なんですが、
作者からすれば海洋生物の、ひいては海全体、地球全体の
安全を脅かす自殺行為的な愚かな行動でしかないのでしょう。

「鯨は頭がいいから殺すな」という
一部の馬鹿げた捕鯨団体の主張と同じではないことを心から祈ります。


バイオ・サスペンスというのが一番正しいような気もしますが、
海洋学、環境学はもちろん、哲学、神学についても考えさせられる
スケールの非常に大きな傑作。
映画化も決定しているようで、どんな大作になるのか楽しみです。
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# by bookgipsy42 | 2008-12-14 00:31 | ☆☆☆☆☆

インド旅行記〈1〉北インド編 (幻冬舎文庫)

中谷 美紀 / 幻冬舎

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インド旅行記〈2〉南インド編 (幻冬舎文庫)

中谷 美紀 / 幻冬舎

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インド旅行記〈3〉東・西インド編 (幻冬舎文庫)

中谷 美紀 / 幻冬舎

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女優・中谷美紀の合計4度、滞在期間4ヶ月に及ぶ
インド一人旅をまとめた旅行記。
最初はひたすらヨガに挑戦し、なんちゃってベジタリアンとなるべく奮闘し、
後半は遺跡を求めてひたすら歩き回り、旅を重ねるという展開。

1~3巻を通してもっとも深い共感を覚えたのは、
下巻に書かれていた次の一文。

「出会っては別れるばかりの旅の切なさが、また会おうと言いながら恐らく二度と会わない切なさが私は好きだ。」

私も場所は違えど海外に2年間ほど滞在した身なので
作者が言っている意味はよく理解できる。

叶わないと思いながら交わした約束を確信犯的に反故にする後ろめたさと後悔が
異国にいるという興奮と相まってひときわ深い余韻を体内に残す。
そんな旅ならではの思いに囚われるのは確かに切なく、
それ故、なかなか忘れられないこともある。

そんな旅にもう一度出てみたいという情熱に駆られる一冊。

ただ、あまりに文章が説明臭く、整然としすぎているきらいがある。
随所に人間、中谷美紀の素朴な素顔が顔を出して興味深いだけに
ゴーストライターの存在すら疑わせるあまりに「ソツのない」文章はマイナス。

ちなみに、私は1巻を読了したあとに、影響を受けてヨガセットを揃えました。
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# by bookgipsy42 | 2008-12-14 00:01 | ☆☆☆

読書の腕前(岡崎武志)

読書の腕前 (光文社新書)

岡崎 武志 / 光文社

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帯の惹句にまずぐっと心を掴まれます。

『本を読む時間がない、という人は多いが、ウソだね。その気になれば、ちょっとした時間のすき間を利用して、いくらでも読めるものである』

ハイ、そうです、その通りです。
忙しいからと言っても確かに本を読む時間が作れないわけはありません。
帯の惹句からしてすでに至極当たり前なことに開眼させられた気分になりました。

この本に貼っている付箋の多くが
第一章の「本は積んで、破って、歩きながら読むもの」に書かれている箇所。

読書のメリットについて様々な人が語ってきた言葉が紹介してあって、
特に腑に落ちたというか、収まるところにすとんと収まった印象を受けたのが
谷川俊太郎さんのことば。

『楽しむことのできぬ精神はひよわだ。楽しむことを許さない文化は未熟だ。詩や文化を楽しめぬところに、今の私たちの現実生活の楽しみかたの底の浅さも表れていると思う』

『楽しみはもっと孤独なものであろう』

とても感銘を受けたんですが、
改めて考えるとこれまた当たり前のことを言っているだけだなあと思います。
だって、読書って、本を読むことって当たり前のことですもんね。

さて、肝心の本の内容はその世界では有名な著者の読書遍歴という趣。
古書にそれほど興味のない私にはとてもディープコア過ぎて分かりませんが、
それでも紹介されてある本を読んでみようという気になります。

本好きな自分が少しだけ誇らしくなる、そんな一冊です。
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# by bookgipsy42 | 2008-12-13 23:52 | ☆☆☆☆